書籍レビュー:『自然言語処理』著:黒橋禎夫

★★★★☆

放送大学の教材です。一度見送った試験の受験資格が半期後まだ切れていなかったので、ダメもとで受けることにしました。

自然言語処理、とは機械による言語処理のことです。ぼくは言語をうまいこと理解できないので、機械が理解できるように言語を理解できれば、楽になるのでは?という期待をもってこの教科を取りました。

機械が言語を理解する方法は、私たちが学ぶ文法と全然違います。日本語・英語どちらの解釈にも「主語」「述語」なんて存在しませんでした。英語の5文型っていったい何だったんだろう?機械にとっては人間用の文法って曖昧すぎるんですね。

機械ではまず文を単語に分解して、句を作って、意味を考えると句と句がどこに係っていくのかを解析し…というような、ボトムアップの手段を使います。人間が機械に意味を教えてやるのは手間がかかりすぎるので、機械学習でweb上から大量の文章をインプットして、その結果『「包丁」と「切る」は親和性があるな』などという情報をスコア化して保存する、といった作業を高速・大量に続ける地道な方法を取らざるを得ないようです。コンピュータが発達したからこそ可能になったことですね。

200P程度では概論しかわからなかったので、実際の処理も作ってみたいです。

ここら辺を参考にして、twitterにそれっぽい文章を自動で投稿するbotを作ってみたいです。


書籍レビュー:『ファインマン物理学 Ⅲ 電磁気学』著:ファインマン、レイトン、サンズ 訳:宮島龍興

★★★★☆

生徒さんから電磁気の質問を受けることが増えたため、波・熱力学の2巻は飛ばして3巻から読みました。1巻・力学の世界は見えるものを扱うため想像しやすくすっきり読めましたが、電磁気は見えないもの、「場」の世界を扱うので、頭がついていかず読むのが大変でした。

ところが電磁気力、特に静電気力はこの世の中に存在する力のほとんどを占めているそうです。何しろすべての物質は正電荷を持つ陽子と負電荷をもつ電子の混合体で、人体の電子が1%多ければ地球すら持ち上げられるほどの力になるそうです!(P1)。

訳者ができる人のようで、ところどころ注で「ファインマン先生、ここは間違っているよ」というツッコミが入っています。

全体的に「マクスウェル先生は偉大」、「4つの方程式

http://www.maroon.dti.ne.jp/koten-kairo/works/transistor/Section2/momentum2.html

こそが偉大」ということを300頁にわたって説明された印象を受ける本でした。難しかった。


書籍レビュー:『ブラディ 一般化学(上)』著:J.E.ブラディ

★★★★★

大学編入用の化学を学びたくて購入しました。化学未履修の人向けの大学1,2年生で講義する内容だそうです。高校の化学よりも取り扱う範囲は広いです。上巻では、モル、電子構造、化学結合、溶液、気体、熱力学などを扱います。

全体的に、知識の詰込みよりも「なぜそうなるのか」を言葉で説明することに重点を置いた教科書でした。ファインマン物理学とも類似しています。アメリカ発の教科書はみんなそうなのかもしれません。極性分子と無極性分子が混ざらないのはなぜか、分子間力(ロンドン力)が働くのはなぜか、やエンタルピー、エントロピーとは何か、などなど分かりやすく解説されていました。

数々の化学理論が出てきますが、著者は理論については謙虚な姿勢を取っています。

おのおのの理論は、同じ物理現象を表そうとしている…どの理論をとっても完璧なものではない。もし、完璧な理論があれば、その理論だけを習得すればよい。おのおのの理論には、一長一短がある。(P185)

大学受験用の化学の参考書としては化学の新研究が有名ですが、ぼくはこの本を大学受験に使用してもよいと思いました。電子軌道論まで説明がないと、遷移元素が典型元素と反応が違う理由が分かりませんし。暗記ゴリゴリで進めると必ず納得ができない箇所がでてきますから。

ただし難関大学への3年次編入を目指す場合は、シュレディンガー方程式の解の求め方などがバッサリ省略されているなど、この本だけでは不足でしょう。物理化学の本を他に読む必要があります。


書籍レビュー:『ファインマン物理学 Ⅰ 力学』著:ファインマン、レイトン、サンズ 訳:坪井忠二

★★★★★

リチャード・ファインマン先生による講義をテープ起こしして、さらに物理学者が再編集したテキストです。訳者は地球物理学者の坪井忠二さん。

数式は最小限に抑えられていて、かつ物理未履修の人でも理解できるよう、代数や微積分、ベクトルの解説もされています。ほとんどが「言葉による説明」であることがこの教科書の最大の特徴です。授業は脱線するし、そもそも第一講が原子の話から始まってます。

この教科書には「これについてはわからない」という記述が何度も出てきます。

「じっさい、我々の知っていることは、すべてなんらかの近似である。というのは、我々はまだすべての法則を知り尽くしているのではない」(P2)

「エネルギーとは何だろうか。それについては、現代の物理学では何も言えない。」(P50)

「自然界を記述するには…いろいろなものごとが不確定だということは、すべて取り除いてしまうことができると直観的に信じている。しかしこのことに成功した人は、まだ一人もいない」(P88)

ファインマン先生は分かることと分からないことにはっきり線を引いています。相対性理論や不確定性原理を考慮に入れると、時間とは、空間とは、確率とは何かという問題に必ず行きつくので、これらについてもページをずいぶん割いてあります。一回読んだだけでは分からないのでもう一度読んでみたいです。

読んでいて面白いし、サクサク読み進められる良い教科書でした。物理学を始めて学ぶ方におすすめです。ぼくは大学時代全く理解できなかったベクトル解析やポテンシャル関数、相対性理論の考え方をこの本で理解できるようになりました。

ただし具体的な力学の問題については、演習問題が章末に解説なしで載っているだけなので、これ1冊ではどうしようもありません。問題集は別途必要です。

書籍レビュー:『ファインマン物理学を読む 力学と熱力学を中心として』著:竹内薫

ちょっと前にファインマン物理学のまとめ本?を読みましたが、読む必要はありませんでした。原書の方が刺激的でずっと面白いです。

 


書籍レビュー:『一人交換日記』著:永田カビ

★★★★☆

 

永田カビさんの2冊目です。1冊目はこちら

書籍レビュー: 『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』 永田カビ

pixivに連載されていたものがそのまま本になりました。

並々ならぬ葛藤の描写がメインですので中身を読んでくださいとしか言えません。自己分析と理由付けが明確に書かれていて面白かったです。

amazonのレビューはウォッチスレをコピーしたような説教や人格攻撃ばかりで腹が立ちます。作者が不合理な行動を取っちゃうのは分かっちゃいるけどどうしようもないことなんですけどね。全部理由書いてありますよ。

 


書籍レビュー:『誰も懲りない』著:中村珍

★★☆☆☆

2冊目です。

フィクションかノンフィクションか、否定も肯定もしていないと筆者が言っているので、そう解した上での感想を書きます。

『お母さん二人いてもいいかな?』と同様に、読みづらく、何を言っているのかわからなくなることが何度もありました。素人のぼくから見ても遠近に違和感のある絵がたくさん存在し、気持ち悪くなりました。読ませる漫画にすることって、難しいんですね。

では内容に注目することとなりますが、この物語は、いかに主人公の登志子がお父さんを好きか、を長々と見せつけられる物語でした。登志子の父が登志子を虐待し、母は自分も殴られるから登志子を庇うことができない。母は虐待に耐えかねて登志子を連れて離婚したと思われます(経緯はぼかされています)が、その際に他の男と浮気したことを、登志子は成人してからも許さず、母に暴言を吐き続け、殴り、踏みつけます。父を捨てた母を許せないからです。どんだけお父さん好きなの!

母の浮気相手と少しの間破局したときだけ、母への評価が180度変わって凛とした表情に変わります。で、浮気相手と続いていたことが発覚するとまた母への恨みを爆発させます。登志子にとって、お父さん以外の男はゴミなのでした。お父さんは最初から最後までイケメン風に書かれていました。お父さんには虐待されていたはずなのに、ずっと連絡を取りあっていました。

レビューで話題になっている「ものさし」の話は、「誰もが自分のものさしで他人の心を測る」といった相対主義で、しかもその「ものさし」は『容赦なく変わらない』『誰かのために目盛が改まることはきっとない』と決めつけられているものでした。徹底した拒絶でした。

とどめに作品の最後で「家族を否定していいのも肯定していいのも私だけなんです」と書かれてしまうと、もう何も言えなくなりました。。

じゃあなんで書いたの。

 


書籍レビュー: 『お母さん二人いてもいいかな?』著:中村キヨ(中村珍)

★★☆☆☆

漫画家・ライター・エッセイストの中村キヨさんによる漫画です。年上の女性と3人の子供を10年育てた『私生活をエッセイ風に漫画化した』作品です。

c71さんが読んでいたのでぼくも読みました。一緒に考えました。

もやもやする本

中村さんの本を読んだのは初めてです。

これはぼくの理解力が足りないのだと思うのですが、全体的に読みにくかったです。時系列は前起きなく飛ぶし、セリフの構成も見づらい。LGBT向けの本の体裁をとっていますが、レズビアンについては中心的なテーマではない。「分かる人に分かればいい」というスタンスなのかもしれませんが、難しかったです。

前半~中盤にかけては子どもたちへの愛情を強く感じました。子どもたちの描写も、表情に乏しいものの、かわいかった。しかし、愛情があるからって何をしてもいいわけではありません。

c71さんのブログにも書かれていますが、トナ君に出生の秘密を打ち明けるシーンはいやでした。もしぼくがトナ君だとしたら、言わないでほしかったし、ぼくが親の立場だとしても、言いません。

あの状況で「出生の秘密を聞きたいか、聞きたくないか」と言われて「聞きたくない」と答える子どもはいません。だって、中学生の時点で、聞きたいか聞きたくないかを判断する能力なんてないですよ。子どもが愛されてることは毎日の生活で本人がよく分かってるんですから、愛を盾にして大人の事情を背負わせる必要なくないですか?子どもが、親のバックグランドを背負わされて、いくつになっても親から身動きが取れなくなっている状況っていっぱいあるんですよ。

お前はお前、うちはうち、お前に語る権利なんかないと言われたら、そうですね、ごめんなさい、何にも言えませんけれど。

もう一点ひっかかたのは、P144から、パートナーのサツキさんと中村さんの関係を、中村さんがママ友に言おうとしたときに、サツキさんが中村さんを諫めるシーンです。

「あなたがママ友だちに『あの子たちの親』としてカミングアウトした瞬間、あの子たちは自分の意志と一切関係なく家庭環境を晒し上げられるんです!親によって!」(P145)

「子どもたちが自発的に『うちのままは女同士で結婚したんだよ』と自発的に言うまでは、あの子たちの『隠す権利と自由』を私たちは死守すべきなんです!」(P146)

サツキさんの言い分はもっともです。中村さんも正しさを認めています。すると、この本の存在意義が疑われます。だってこの本は子どもたちと自分たちのプライバシーを切り売りした作品だからです。作品中にはその気になれば居所や関係性を特定できるような要素が紛れ込んでいます。危険です。

子どもたちを守りたいのなら、この本を出さなきゃよかったのでは?

 


書籍レビュー:『これが物理学だ!マサチューセッツ工科大学「感動」講義』著:ウォルター・ルーウィン 訳:東江一紀

★★★★☆

物理を生徒さんに楽しく教えられたらいいなあ、という想いで読みました。

著者のウォルター・ルーウィンさんは1936年オランダ生まれの物理学者で、MITの教授です。彼の物理未修者向けの講義はユニークな実験を必ず交えており、世界中にファンがいます。

例えば次の動画を見てください。15kgの鉄球を振り子の先に付けて手を放し、鉄球が戻ってきても元の高さを超えることはない、というエネルギー保存の法則を体を張って証明しています。

「私はエネルギー保存の法則を100%信じている。鉄球の速さが0にならなければ、これは私の最後の講義となる」

「物理学は正しかったので私は生きているぞ!じゃまた来週!」

すごい人です。このような実験がどの講義でも行われているというのですから、MITの人は恵まれていますね。

「あの人は教壇で爆発するんですよね。…あの疾走感は今でも首の後あたりに残っています」(P17、教え子談)

本書は前半で、講義の内容をまとめたと思われる、ニュートンの4法則や電磁気、音など物理学の基礎にまつわるトピックが豊かに記述されています。ウォルター先生は虹が好きで、虹のできるメカニズムや作り方、白い虹や二重虹について熱く語る第5講が特徴的でした。

後半はウォルター先生の専門分野であるX線宇宙物理学についての話で、東京ドームより大きな気球を飛ばしてX線を検出したり、星が終わるとき何が起こるのか、重力崩壊から中性子星を経てブラックホールになる過程の詳述など、スケールが大きすぎて頭がおかしくなる話がいっぱいでした。

ブラックホールについては

・ブラックホールの中心には、体積がゼロで密度が無限大の「特異点」なるものがある

・ブラックホールを観測する人間から見ると光の速度が遅くなって波長が長くなるので、ブラックホール付近にいる人は赤く見える。ブラックホール付近にいる人からは外部が青く見える。

・ブラックホールにもっと近づくと赤(赤外線)を通り越して可視光を外れ、透明人間になる

・ただし透明人間になる頃には、重力で体が引きちぎられる。これをスパゲッティ現象という

という怖い知識が身に付きました。

ウォルター先生はユダヤ人で、一族をホロコーストで半分亡くしています。第1章には彼の壮絶な過去も描かれています。ホロコーストを笑い飛ばす映画である『ライフ・イズ・ビューティフル』には不快感を覚える、という記述を読んで、そーだよな、ごめんなさい、と思いました。

内容はすばらしいし、ウォルター先生の講義もすばらしいのですが、本書には2点欠点があります。1点目は図が少ないこと。物理学の本なのになぜか縦書きということもあり、イメージが湧きにくく読むのに労力が必要です。2点目は、訳が雑なこと。特に要のはずの物理用語周りの訳が読みにくく、「光が大気圏を通り抜ける間に空気分子を『飛び散らせる』」(P24)という明らかな誤訳もありました。残念です。

彼のことを知りたければ、講義を視聴するのが一番だと思います。

https://www.youtube.com/channel/UCliSRiiRVQuDfgxI_QN_Fmw

力学、電磁気学、波動についての講義や子供向けの講義など、約100件の講義が無料で公開されています。英語ですが字幕も付いていますので、ちょっとだけ英語が読める人なら十分ついていけます。ぜひご覧ください。

一点、忘れないようにしたいことを引用しておきます。

質問があるたびに忘れずにこう言った「すばらしい質問だ。」教える者が何より避けたいのは、学生は愚かで自分は賢いという驕りを、学生たちに感じさせてしまうことだ。(P385)


書籍レビュー:『英文法・語法のトレーニング 基礎講義編』著:風早寛

★★★★★

語学は慣れが全てだと思っています。誰でも慣れればマスターすることができます。なぜならこの文章を読んでいるあなたは日本語を慣れだけでマスターしているからです。でも慣れだけだと時間がかかります。だってあなたが日本語をまともに話せるようになるには少なくとも10年はかかりましたものね。

ここで登場するのが文法です。文法はある言語についてネイティブが無意識にやっている慣習をまとめて体系化したものです。「最低限これだけ覚えとけばいいよ!」という骨組みのようなものです。どんな言語でも、必要最低限の文法を学ぶのには1年もかかりません。文法をまず最初に覚えると楽です。文法は語学学習のショートカットのためのツールです。

文法は慣習ですので、どうしても覚えるしかないことがたくさんでてきます。例えば「giveは第4文型を作る」「I am possibleという英語はない」のはなぜか?という理由としては、突き詰めると「みんながそうしているから」としか言えません。

日本語だって慣用のかたまりです。

あんまり知られてない?! 日本語で外国人がくじけるとこ

英語と比べると日本語は文の形は自由だし活用はむちゃくちゃだし主語はいらないしフリーダムです。英語って文型5つしかないんだよ、必ずだよ、楽だよね。

ということを授業で話そうかなと思いながら読んでいました。

本書は「基礎講義編」と銘打っているように中学修了程度の生徒が読むことを想定しています。易しく読めますが対話形式にもかかわらず内容は深く、覚えるしかない表現も相当カバーされているので、これ1冊を数回まわしたらセンター英語の文法問題は9割以上解けちゃうんじゃないかな、という印象を受けました。5文型、分詞、仮定法の解説に特にページが割かれています。Lesson50の分詞「長文読解に応用する」は英文に慣れていないとつまづきやすい「これは分詞なの?述語動詞なの?どっちなの」かを解決する方法が明快に説明されていました。大学受験用の英文法で使う用語を全部忘れたので復習用に読んだのですが、面白い本でした。

あとで気がつきましたが、著者は速読英単語と同じ風早寛さんでした。速読英単語は受験時代にお世話になった単語集ですので懐かしいです。

 


書籍レビュー:『新微分積分Ⅰ、Ⅱ』(高専の教科書)

★★★★★

全国の高専で使われている数学の教科書です。Ⅰが高校の数Ⅲ+α(テイラー展開など)に相当し、Ⅱは理系大学1・2年の微積分の範囲をカバーします。

説明は簡潔かつ的を射ていて、理解しやすいです。計算が確実にできるようになることが重視されており、「実戦で使える数学」としては最強の教科書だと思います。大学で指定される教科書は証明や記述が回りくどかったり分かりにくかったりすることが多く挫折した経験があるので、大学ではじめにこの教科書を使ってくれればよかったのに、と思うほどです。

さすがに終盤の微分方程式では紙面が足りず、難しい公式が天下りに振ってくることもありますが、ページが数式で埋まることなく進むのでむしろ都合が良いです。もっと学びたい人は理論を他の本で埋めてください。