書籍レビュー: 心は4分割できるか『心の理論』 著:子安増生

★★★☆☆

他人の心を読む仕組み

著者の子安増生さんは教育学者。幼児・児童の認知心理学・発達心理学が専門のようです。

本書で紹介される「心の理論」とは、「他人の心を読むしくみ」のことです。自己の心的作用の成り立ちを示している本ではありません。自閉症患者には欠けていると言われるこの理論、一体どんなものなのか興味があって手に取った本です。

この理論を提唱したのはサイモン・バロン=コーエンという学者です、、ってまたあんたか!!次の本で散々引用されていました。

バロン=コーエンの書籍は1冊図書館から借りてきたところなので、近いうちに読みます。

彼は心を読む働きを次の4つに分類しました。

a) 意図検出器(ID) 視覚・聴覚・触覚を利用して、「動くもの」の目標や願望を予測する。主に危機回避のための機構。

b) 視線方向検出器(EDD) 他人の視線を検知し、自分を見ていること、他のものを見ていることを認識する。

c) 共有注意の機構 (SAM) aとbより高次。事故、他者、他の物(または他者)の三者間の関係を利用した心の仕組み。例えば、指さしをして他の物に他者の注意を引く、など。他人と同じ物事を共有する、いわゆる「共感」もここに含まれるようだ。

d) 心の論理の機構(ToMM)  cより上位に位置し、最も高次。他の人の心の状態の知識に基づいて行動するための心の仕組み。「AさんがXと思っているとBさんは思っている」など、複雑な入れ子構造を理解するために必要な能力。

バロン=コーエンは以上4つの機構に心を分割しているそうです。自閉症では、主にcとdの機構が欠如しているとのこと。

薄いくせに冗長

さて本書ではa~dを順に解説していくわけですが、わかりにくかったです!というのも、読者を飽きさせないようにするためか、関連する映画のストーリーを挿入したり、心理学の教授を作者が訪問する(ちょっと自慢入ってるかも)様子などを交えたりするのですが、はっきり言って必然性がないです。おかげでただでさえ130Pと薄い本書の内容がさらにペラペラになるという始末です。ネタ本がはっきりしているので、そっちを読んだほうが確実にためになりそうです。むむーー。

心の論理の機構テスト

しかし本書でも1点ショッキングな事実がありました。d)の本チャン心の論理の機構を簡単にテストできる質問がありました。

ジョンとメアリーは公園にいた。その公園にはアイスクリーム屋さんと、彼のバン(車)があった。メアリーはアイスクリームを買いたかったが、家にお金を置いてきてしまった。アイスクリーム屋さんはメアリーに「悲しまなくてもいいよ。後でお金を持ってきてアイスクリームを買えばいい。おじさんは、午後ずっとこの公園にいるだろうから」と言った。メアリーは喜び、「午後にお金をもってアイスクリームを買いに来る」と言った。

メアリーは家に帰って行った。ジョンは公園に残っていたが、アイスクリーム屋さんが公園から去ろうとしているのを見て驚き、「どこへ行くの?」と聞いた。アイスクリーム屋さんは「バンを教会の前まで運転していくんだ。ここにはアイスクリームを買ってくれる人がいない。教会の外なら少しは売れるだろう」と言った。

アイスクリーム屋さんは、教会まで運転をしていく途中、メアリーの家の前を通りかかった。メアリーは窓から外を見ており、バンを目にしたので、「どこへ行くの?」と聞いた。アイスクリーム屋さんは「教会へ行くところだよ。そこならもっとアイスクリームが売れるかもしれないからね」と答えた。ジョンは、メアリーがアイスクリーム屋さんと話したことは知らない。

ジョンも家に戻り、お昼ごはんの後宿題の勉強をしていた。自分だけではできないことがあったので、ジョンは手伝ってもらおうと思ってメアリーの家に行った。玄関にメアリーのお母さんが出てきた。「メアリーはいますか?」「あら、出ていったところよ。アイスクリームを買うと言っていたわ。」

質問:ジョンはメアリーを探しに行きました、ジョンはメアリーがどこに行ったと思っているでしょうか?

 

スクロールしてから答えを書きます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

答えは「公園」です。「アイスクリーム屋さんが公園にいるとメアリーが思っている、とジョンは思っている」「メアリーはアイスクリーム屋さんは教会にいると知っている、ということをジョンは知らない」と考えるのが自然です。でも私は間違えました。教会だと思ってしまいました。

というのも、この文章ってノイズが多すぎるんですよね。私は昔から文章の特定の部分にだけひっかかって、現代文の文章問題ではポイントを3つ書かなければいけない所を同じことを3回書いてしまうということが多かったことを覚えています。メアリーのお母さんとか宿題とかお昼ごはんとかアイスクリーム売れないとか要らん情報ですよね。ノイズにかき回されると、話の関係が分からなくなることは多いです。読み返せる文章なら何度か確認することでこれを回避できますが、日常会話となるともっとノイズ情報が膨れ上がるし前に戻ることができません。

自閉症と心の理論|心理カウンセラーのブログ

このサイトにあるような、余分な情報を削り取った課題なら間違えません。

ああこれが、私が文脈を理解できなくなる原因の一つなんだ。心の理論は全く理解できないのではなく、理解のスピードが非常に遅いんでしょうね。一つ参考になりました。スピードの観点から論じられている書籍はあるのでしょうか。そんな書籍があったらきっと感動します。

心の理論というのは通常人間にとって最も重要な事項ですから、引用文のように余分な情報が多くても、いわば感覚が研ぎ澄まされるように要点を抽出し、入れ子の構造を素早く作ることができるのでしょう。自閉症スペクトラム患者は、心の動きにあまり重点をおかず、すべての言葉に等しく重み付けをしているのかもしれません。

 

小説をたくさん読んだ方がいいのかな。きっと苦手なんだろうな。読んでも読めてないことが多いんだろうな。人の心の動きの全パターンを網羅するつもりでかからないと、だめなのかもしれない。

 

 

参考書籍

 

ネタ本。本書よりもこっちを読んだ方がよさそうです。ただ、訳が悪いらしいのが欠点。。

自閉症とマインド・ブラインドネス

自閉症とマインド・ブラインドネス

  • 作者: サイモンバロン=コーエン,Simon Baron‐Cohen,長野敬,今野義孝,長畑正道
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2002/06
  • メディア: 単行本
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 視線について。

まなざしの心理学―視線と人間関係

まなざしの心理学―視線と人間関係

 

 

 


HANNIBAL: Rome’s Worst Nightmare を見ました

数独ソルバーの続きを作っていたらドツボにハマったので、気持ちを切り替えるために次の記事を書いている途中で見つけたハンニバルのドキュメンタリーを見ました。

 

www.youtube.com

1時間半。ハンニバルがスペインを発ってイタリアに攻め込み、ザマの戦いで負けるまでを追うドキュメンタリーです。アルプス越えとカンネの戦いに力点が置かれています。っていうかこりゃもうドキュメンタリーじゃないです。映画とみなして構わないレベルです。エキストラ何人使ったんだよってレベルの戦闘シーンに、カルタゴ軍の象徴・象もバッチリ登場、「ローマの盾」ファビウスの役者は良い感じにイっちゃってるしハンニバルの弟役もいい味出してます。BBCすごい。文字だけで読んでいたものに映像イメージが付けられるのってホント楽しいです。

ザマの戦いでハンニバルがスキピオの戦略を「俺を完全にコピーした。。」と評しているのが印象的でした。あとハンニバルがイタリア内部に留まりつつも本丸ローマを長期間叩けなかったのは、カルタゴ本国が政敵に言いくるめられて補給をぜんぜん寄越さなかったからなのですね。スキピオはローマが地中海の覇者となるのにあんなに貢献したのに大カトーにあっさり失脚させられましたし、嫉妬野郎がいるとホント悲惨な目に会いますね。

BBCはNHKとは違いテレビを買うときに受信許可証なるものを払う、という形式をとっているそうです。収納率は約98%とNHK様をはるかに凌ぐ割合です。BBCはイギリス国民から吸い取った金で私のような他国民にも無料でラジオの生放送や再放送を聞かせてくれる太っ腹な神放送局です(テレビはUKオンリー)。youtubeに優れたドキュメンタリーが山ほどアップロードされているので、今後も少しずつ見ていこうと思っています。

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うわー。見終わる前に死ぬ


書籍レビュー: なぜ各桁の和が3で割り切れるとその数は3で割り切れるのか『数学入門〈下〉』 著:遠山啓

★★★★★

 

上巻に引き続き下巻では、整数論・関数・極限・指数対数三角関数・微積分がターゲットです。

合同式

123とか54321とか、各桁を足すと3の倍数になるということは知識として知っていました。お金を3等分したり料理中に材料を3等分する時に便利ですよね(あまり使わないか?)。でもそれが何故かなんてことは、全く考えてもみませんでした。ところが本書の序盤で出てくる「合同式」を使うと一発で証明できてしまうことに感動してしまいました。

合同式という概念は昔河合塾で習いました。しかし受験では一度も使うことなく入試に通ってしまいましたので、非常に印象の薄かった記憶しかありません。もちろん忘れました。

合同式とは、「ある数で割った余りが右辺と左辺で等しい」ということを表す式です。合同はふつうの等号に線を一本足した ≡ と書き、商を mod ? で表します。例えば

5 ≡ 2(mod 3)

です。5を3で割った余りは2、2を3で割った余りは2なので5と2は合同という意味です。

なぜ漫画の効果線みたいなけったいな記号を使うかと言うと、イコールと同じように扱えて直感的で便利だからです。例えば

5+1 ≡ 2+1 (mod 3)

5*2 ≡ 2*2 (mod 3)

 は成り立ちます。同じように引き算や割り算をしてもOKです。

100を3で割った余りは1、10を3で割った余りは1ですから、

100 ≡ 1 (mod 3)

10 ≡ 1 (mod 3)

 例えばa*100 + b*10 + cという数を3で割った時の余りを考えると、

a * 100 + b * 10 + c ≡ a + b + c (mod 3)

となって、各桁の和を足したものを3で割れば、3で割った余りが分かることが証明できました!!同じように9で割った余りについても

100 ≡ 1 (mod 9)

10 ≡ 1 (mod 9)

なので3で割った余りと全く同じ事が言える、つまり各桁を足して9の倍数になればその数は9で割り切れることまで証明できましたすごい!!!これで9等分も楽勝だ!

無限の魔力

もう一つ面白かったことがあります。無限をめぐる数学者たちの苦悩です。

1-1+1-1+… = ??

と無限に続いていく数は一体いくつになるのか、ということについて3通りの考えが示されました。 ボルツァーノの級数と言うらしいです。

1通り目→0である。

1-1+1-1+1…

= (1-1) + (1-1) + …

= 0

 2通り目→1である。

1-1+1-1+1…

=1 + (-1+1) + (-1+1) …

= 1

 3通り目→1/2である(!?)

求める数をxとおく。

x=1-1+1-1+…

=1 – (1-1+1-1+…) = 1 – x

2x = 1

x = 1/2

3通り目、面白いですね。直感的に考えると、どれも正しいような気がしてしまいます。コーシーという人が後世にどれも正しくない、答えはないということを証明してこの論争には終止符が打たれました。数学者たちの考えることってとても面白いです。

微分と歴史

ユークリッド幾何学や代数、数論は主として静的なもの、動かない数字や図形についての考察でした。しかし14世紀から15世紀にかけて、大航海時代が始まり太陽や月の運動を精密に知ろうとする必要が生じました。ここから運動と変化の科学が生まれ、関数、微分・積分といった新しい数学が誕生していったと著者は主張します。

すべてのものは流動するという信念を持ち地球が動いていると主張したガリレオが、絶対的な神という最強の静的存在を権威に持つ教会によって弾圧されたこと、正確な運動の原理を算出するために微分法を編み出したニュートンを執拗に攻撃したのは教会の代行人たる僧正(兼哲学者)バークリであったことがこの主張を大きく裏付けます。我々をあんなに悩ませた関数やら微積分やらは歴史のエネルギーによって生み出されたものであると考えると、ロマンにあふれていてなんだか大切にしてあげないといけない気にありますね。

ちょっと駆け足過ぎた

文明論まで交えながら数学を語る筆者の語り口は非常に魅力的です。しかし問題は本書のサイズでした。わずか230ページの中に雑談も混ぜつつこれだけ沢山のトピックを盛るのは無謀です。特にオイレルの公式、様々な積分法、微分方程式ははしょりすぎで、私には全く理解できませんでした。紙面が足りずやむなく式の羅列が続くと筆者の魅力も半減してしまいます。十分優れた本ではあるのですが、上巻のように数学にまつわる雑談をもっと増量してほしかったというのが正直な感想です。この点は著者の他の本を読んで補おうと思います。

ここにも登場、数キチ・アルキメデス

以前この本にも登場したアルキメデスが本書にも登場しました。引用文でまたも彼の数キチぶりが発揮されていました。

プルタークの『英雄伝』は古代における最大の数学者アルキメデス(紀元前287頃-212)についてつぎのように記している。

「多くの立派な事がらを発見したが、友人や同族のものに頼んで、自分の死んだ後では、墓の上に、球に外接している円筒を立てて、内接体に対する外接体の比を記して呉れと云ったそうである」(プルターク『英雄伝』四(岩波文庫)P163)

あんた数学者の鑑や。。詳細はこちらをご覧ください。

アルキメデスの墓に刻まれていたと伝えられる図柄に秘密が・・・ 中1 空間図形|数楽者のボヤキ・ツブヤキ・ササヤキ-中学 数学 道徳 Mathematics Puzzles-

 

 

参考文献

 もうちょっと簡単な本

数学の学び方・教え方 (岩波新書 青版 822)

数学の学び方・教え方 (岩波新書 青版 822)

 

 無限についてもっとくわしく

無限と連続―現代数学の展望 (岩波新書 青版 96)

無限と連続―現代数学の展望 (岩波新書 青版 96)

 

 講演集。数学史と、群論・集合論など

現代数学入門 (ちくま学芸文庫)

現代数学入門 (ちくま学芸文庫)

 

 微積分のもっとわかりやすい本

微分と積分―その思想と方法 (日評数学選書)

微分と積分―その思想と方法 (日評数学選書)

 

CDレビュー: Ametsub – Linear Cryptics (2006)

★★★★★

 

久しぶりにエレクトロニカを聞きました。Ametsub(あめつぶ?本名不明)は日本人アーティストです。

神経症が転じてα波を出す?

エレクトロニカは電子音を多用するその構造上、没交渉で神経症的で耳障りになりやすい音楽です。Aメロ、サビなどに分かれているわけでもなく、歌詞も全くありませんし、メロディーすらないことが多いです。私はエレクトロニカは好きです。大きな感動を覚えることは少ないのですが、その捻くれた音楽性に肩入れしているのかもしれません。

彼?の作品は一度通して聴いたことがありました。音の作り方、積み重ね方が自分の固有振動数か何かと合うのか、とても気に入ったことだけ覚えていました。あれから数年経っているので、どれだけ印象が変わったか興味があり再度ファーストアルバムを聞いてみたら、やっぱり優れた作品でした。印象は以前よりもよくなりました。

特徴は、強烈なコラージュと執拗な繰り返し、あちこちに散らばった孤独な電子音の集合体です。なのになぜか気持ちが落ち着きます。一体どのような作用によるのか未だによくわかりません。

 

前回一番衝撃を受けた3曲目です。繰り返してるだけなんですが。

www.youtube.com

 

以前あまり気にならなかった曲10曲目Green Oeuvreが一番腹にこたえました。表面上目立つ鍵盤楽器の空間的広がりも特徴的ですが、右と左と時々中央でブチブチブツブツヘロヘロ言わせてる電子音にとんでもない寂寥感を抱くのです。

www.youtube.com

 

このほかサインカーブの切なさが炸裂する7曲目2 Catsや、3曲目とセットになっている16分ぶつ切り回転寿司な2曲目Lurid Sky And Tama Streamもおすすめです。

 

 

 

電子音楽の他のCDレビューはこちらです。


書籍レビュー: 盛者必衰の理 『ローマ人の物語 (5) ― ハンニバル戦記(下) 』 著:塩野七生

★★★★★(つω`*)

 

第5巻の舞台は紀元前205年~146年です。第二次ポエニ戦争、第三次ポエニ戦争を経てマケドニア、カルタゴが滅亡し、ローマが地中海の覇者となるまでを辿ります。

戦力の非戦力化

前半の山場はやはり、カルタゴの天才策略家ハンニバルと、ハンニバルを戦略の師匠としたと思われるローマのスキピオの師弟対決でしょう。地中海の覇者となる運命を決定づけた戦いは、北アフリカのザマで行われました。

Battles second punic war.png

ザマの戦い – Wikipedia ザマは図の下の方にあります。現在のチュニジアあたりです

3~5巻の「ハンニバル戦記」において、もっとも重要な軍事上のポイントは「敵の主戦力の非戦力化」でした。相手の最も力のある兵力を包囲したり逃げ場を無くしたりその他様々な方法をもって無力化することで、圧倒的な勝利を収める戦いがほとんどでした。ローマ軍がハンニバルにボロ負けした前216年のカンネの戦いでも、ハンニバルは機動力に優れたヌミディア騎兵を操り、ローマ自慢の重装歩兵の四方を包囲することで無力化し、ローマ軍死者6万(兵力は7万なのでほぼ全滅)、カルタゴ兵の死者6千という圧勝に導きました。

ザマの戦いではスキピオがこの方針を取り入れ、隊列をうまく整えてカルタゴの象(戦車代わり)を避けた後に、更に隊列を左右に大きく広げて、後ろから騎兵をもって包囲しました。

ザマの戦い – Wikipedia

結果はカルタゴ軍戦死者2万人、ローマ側1500人。カンネの戦いと正反対です。この戦略のオリジナルはもちろんハンニバル。カンネの戦いの時点ではヌミディア騎兵はカルタゴ側についていたので、彼らを引き抜き事前に騎兵力を強化することのできたスキピオの根回し勝ちともいえます。「主戦力の非戦力化」の効果はすさまじく、この戦法を熟知したローマ軍は他の戦いでも圧勝続きとなります。

私は戦略ものをやったことがないので実感はないのですが、これはあらゆる戦略で非常に重要な概念なのではないでしょうか。

盛者必衰

さてこの巻はハンニバルvsスキピオの他に、もう一つ大きなテーマがあります。「盛者必衰」です。日本の中高生も「平家物語」でこの言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。

カルタゴは紀元前5世紀に興ったと言われています。ローマよりも歴史のある商業大国でした。ローマに何度も負けても、賠償金の支払いなんて余裕でできてしまうくらい金がありました。それがシチリア島をめぐる小競り合いから、滅亡へと進んでいってしまいます。

ローマをズタボロにした第二次ポエニ戦争終結後、カルタゴと結ばれた講和条約では自治は認められるわ賠償金は少ないわ意外にもゆるいものでした。しかしカルタゴは、国内改革を断行するハンニバルに謀反の疑いをかけて追い出したり、ローマの許可なく戦闘してはいけないのに隣国と戦争したり、自らの失策から自滅してしまうのです。第三次ポエニ戦争は首都カルタゴの籠城戦のみで、食料が尽き決壊した首都カルタゴは徹底的に破壊され不毛の地と化します。国破れて山河在り。

ローマの英雄スキピオはマルクス・カトーという粘着質な政治家の手によりスキャンダルをでっち上げられ失脚、隠遁生活を送り数年後死にます。

スキピオの生涯のライバルであるハンニバルも、カルタゴから追放された後はシリアに亡命し、シリアでは対ローマ戦に担ぎ出されるも周りの嫉妬に寄り意見が採用されず結局負け、更に逃亡してクレタ島やらビテュニア王国(今のトルコの一部)に逃げ、そこにもローマの追手が来たので毒を飲んで自殺します。二人とも、偶然にも紀元前183年に亡くなったそうです。

歴史ある国、大ヒーロー2人が相次いで後味の悪い滅び方をしたこの巻ではかなり衝撃を受けました。

憧れの有名人は必ずいつか死にます。アメリカも日本も、人類も地球もいつか滅びる時が来ます。そんなとき私達はどんな感慨を抱くのでしょう。

カルタゴ滅亡時のスキピオ・エミリアヌス(スキピオの長男の養子)の叙述の引用で締めくくりたいと思います。文中のポリビウスというのはエミリアヌスの友人で歴史家(つまり次の記述を残した人)です。

勝者であるにもかかわらず、彼は想いを馳せずにはいられなかった。人間にかぎらず、都市も、国家も、そして帝国も、いずれは滅びることを運命づけられていることに、思いを馳せずにはいられなかったのである。トロイ、アッシリア、ペルシア、そしてつい二十年前のマケドニア王国と、勝者は常に必衰であることを、歴史は人間に示してきたのであった。

(中略)

「ポリビウス、今われわれは、かつては栄華を誇った帝国の滅亡と言う、偉大なる瞬間に立ち会っている。だが、この今、私の胸を占めているのは勝者の喜びではない。いつかはわがローマも、これと同じ時を迎えるであろうという哀感なのだ」

 

 

参考動画

ハンニバル戦記関連の映画を探してみましたが、意外なことにまともな映画がありませんでした。一番よさそうなのはBBCのドキュメンタリーです。貼っておきます。

www.youtube.com

英語字幕がついていて、やった!勉強になる!と思っていたらこれがトンデモで、

聴き取り「The ancient empire of Carthage ruled the mediterrenean, until Caltage is challenged, and brutally defeated by war, by Rome」

字幕「the ancient empire of Carthage ruled at the moment, it’s raining into caffeine which was challenged and brutally defeated by, world

と、カルタゴがカフェインになっていたり、何故か雨が降っていたり、カルタゴは戦争でなく世界に滅ぼされていたりローマが省略されていたり、もうめちゃめちゃです。使い物になりません。残念。死ぬ気で聴き取るしかなさそうです。